メディカルコラム

声の障害を回避する『術中神経モニタリング』

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甲状腺の手術では、発声に関係する反回神経や上喉頭神経の外枝を損傷するリスクがあります。反回神経を損傷すると声がかすれ、発声時間が短くなったり、誤嚥しやすくなったりします。上喉頭神経の外枝を損傷すると高い声や大きい声が出なくなります。

隈病院では、こうした神経の損傷をできる限り避けるために、『術中神経モニタリング』を全ての手術で施行しています。

声に関係する神経

声帯は、左右一対となって喉仏にあります。この左右の声帯が、息を吸う時は開き、声を出す時や食べ物を飲み込む時は閉じるのですが、左右の声帯が閉じている時に呼気が肺から口の方向に流れると声帯が上下に振動して音声が出ます。この開閉の指令を声帯に伝えるのが反回神経で、太さ1~1.5mmほどの細い神経です。

また、喉仏の外には輪状甲状筋という筋肉があり、これが収縮すると声帯の緊張が高まり、高い声、大きい声が出ます。この指令を伝えるのが上喉頭神経外枝です。上喉頭神経外枝は、反回神経の1/3程度と大変細く、しかもその走行経路にバリエーションが多いので、確実に温存することは必ずしも容易ではありません。この神経が傷つくと高い声、大きい声が出せなくなります。特に、女性や歌手は発声できる音域がもともと広いため、神経損傷による症状を強く感じる傾向にあります。

甲状腺の手術では、これらの神経を傷つけないようにすることが大切ですが、甲状腺が大きく腫れている場合や、甲状腺腫瘍の状態によっては、どこに神経があるのかわかりにくいこともあります。また、腫瘍と神経が癒着しているケースも考えられます。

反回神経の術中神経モニタリング

反回神経の損傷を避けるため、現在、当院では、ほとんどの甲状腺・副甲状腺手術において、麻酔時に電極付きの特殊な気管挿管チューブを使用し、手術中に神経モニタリングを行います。これは、声帯の筋肉が収縮するときに発生する電気を電極がキャッチし、筋電図として視覚化できる装置です。反回神経を刺激すると筋電図反応がおこるため、反回神経を確実に見つけることできます。神経が腫瘍と癒着している場合には剥離して神経を温存できますし、剥離手術の途中でも神経が機能しているかどうかを確認することができます。もし神経の麻痺が起こった場合でも、どの部分がどのような原因で麻痺したのかが特定しやすくなり、対応が容易になります。

上喉頭神経外枝の術中神経モニタリング

上喉頭神経外枝は反回神経よりさらに細く、甲状腺切除を行う際に切離する上、甲状腺動脈に絡んで甲状腺のすぐ近くを走行することもあるため、これまでは確実に温存することが非常に困難でした。しかし、現在では術中神経モニタリングによって、視認できていない上喉頭神経外枝を電気的に刺激し、その走行を確認できるようになったため、神経温存率が飛躍的に上昇しました。当院では、上喉頭神経外枝の近くを触る可能性のあるすべての甲状腺手術において上喉頭神経外枝の術中神経モニタリングを行い、神経損傷を防ぐようにしています。

本記事は、隈病院の医師が監修しています。

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