メディカルコラム

【隈病院 専門医監修】バセドウ病と橋本病の関係を解説|移行の仕組みと共通の体質とは

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はじめに

バセドウ病と橋本病は、代表的な甲状腺の病気です。バセドウ病は血中甲状腺ホルモンが上昇し、頻脈、多汗、体重減少など代謝亢進症状を呈するのに対して、橋本病で問題になるのは血中甲状腺ホルモンが低下し、体重増加、寒がりなど代謝低下症状を呈する場合です。また、バセドウ病では眼球突出のような特徴的な症状があります。このようなことから、バセドウ病と橋本病は対照的で、全く異なる疾患だと思われていないでしょうか。しかしながら、実は両者の病因と病態には共通点が多いのです。

遺伝について

バセドウ病や橋本病の患者さんの家族歴を調べますと、図1のように血縁者に両方の病気の方が含まれることが多々あります。以前、日本人バセドウ病の患者さんの一親等(親子関係)にどれだけ橋本病の患者さんがおられるか調べましたが、8%という結果であり、ダントツに頻度の多い疾患でした。ちなみに、バセドウ病の患者さんの一親等にバセドウ病の親族がおられる頻度は2.1〜3.1%という結果でしたので、いかに橋本病が多いかがわかります。以上の結果は、バセドウ病と橋本病の遺伝的素因、いわゆる体質に共通点があるということを示しています。


バセドウ病や橋本病の患者さんからしばしば遺伝しますかと聞かれますが、遺伝病ではありません。図2にありますように、遺伝的素因(しばしば体質と言われます)と環境的要因が重なって発症すると考えられます。遺伝的素因は単一ではなく、免疫関連や甲状腺関連などの複数の遺伝子が関わっています。環境的要因もストレスや食事など複数あると考えられています。そして、バセドウ病と橋本病の発症に共通した遺伝因子と環境因子が存在することが知られており、両疾患の類似性を示す有用な証拠といえるでしょう。両疾患ともに女性に多く、発症年齢も似通っています。

両疾患はお互いに移行します

血中甲状腺ホルモンが高かったバセドウ病の患者さんが、治療中に次第に甲状腺機能低下症になることが時々あり、橋本病と診断されます。また逆に、橋本病と診断されていた患者さんが、甲状腺機能亢進状態となりバセドウ病と診断されることがあります。このように両疾患は相互移行する場合があり、両者の共通性を示す証拠の一つです。さらに、ハシトキシコーシスという病態があり、橋本病とバセドウ病の両方の特徴を同時に有しています。名前もその通りに、ハシ(橋本病)+トキシコーシス(甲状腺中毒症、すなわちバセドウ病)を意味する合成語です。すなわち、臨床症状はバセドウ病様ですが、病理学的所見は橋本病様であり、抗甲状腺薬を服薬すると数ヶ月で橋本病様の臨床症状なることが特徴です。


このような両疾患の移行に大きな役割を果たすのが、TRAb(抗TSHレセプター抗体)です。TRAbはバセドウ病の診断に必須な検査で、必ず測定されます。その理由は、TRAbがバセドウ病の原因物質だからです。TRAbは甲状腺に存在するTSHレセプターに結合して甲状腺を刺激して甲状腺ホルモン産生を過剰にし、その結果、血中甲状腺ホルモンが上昇して甲状腺機能亢進症を引き起こします。図3左に示しますように、甲状腺を刺激することから、甲状腺刺激抗体(thyroid-stimulating antibody:TSAb)と呼ばれ、TSAbもバセドウ病を診断するルーチン検査として日常診療で使用されています。TSHレセプターは、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が結合するタンパクで、TSHの作用を伝搬するのに重要な働きをしています。TRAbの中には、TSHの働きを阻害する抗体があり、阻害型TRAbと呼ばれ、甲状腺機能低下症を引き起こします(図3右)。バセドウ病が治療中に甲状腺機能低下症になるのは、このような阻害型TRAbが出現することによる場合があります。

まとめ:両疾患の関係

以上から、バセドウ病と橋本病には共通点があり、相反する独立した疾患というよりも連続的な疾患と考えられています。すなわち、図4に示すような概念で、「虹(レインボー)仮説」と呼ばれています。実際、学問的には両疾患を含めて「自己免疫性甲状腺疾患」と総称されています。橋本病の診断に重要な抗サイログロブリン抗体と抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体は、バセドウ病においても高頻度に認められます。前述のように、両疾患はしばしば同一家族内で発症し、互いに移行したり、ハシトキシコーシスのように両方の特徴を同時に有する場合があります。このように、見方によって疾患の捉え方が変わり、本質が浮き彫りになってきたりします。これからも甲状腺疾患を様々な観点から見ていきたいと思います。

院長 赤水尚史

PROFILE

1980年に京都大学医学部を卒業後、同大学医学部付属病院や神戸市立中央市民病院などで内分泌学を専攻し、特に甲状腺分野におけるキャリアを開始。米国国立衛生研究所(NIH)留学などを経て、2007年京都大学医学部付属病院探索医療センター教授、2010年より和歌山県立医科大学内科学第一講座教授に。長年にわたり内分泌医療の研究および診療に尽力してきた。さらに、日本甲状腺学会理事長、日本内分泌学会代表理事、国際内分泌学会理事などを歴任し、国際的にも広く学会の発展にも貢献した。

2020年4月より隈病院に入職し、副院長に就任。2022年4月からは院長を務め、後進の指導や新たな研究体制の構築を進めている。和歌山県立医科大学特別顧問・名誉教授。

本記事は、隈病院の医師が監修しています。詳細はこちら

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