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症状

バセドウ病の代表的な症状は「甲状腺腫(首の腫れ)」「頻脈(脈が速くなる)」「眼球突出(目が突き出るなどの目の症状)」の3つです。バセドウ氏の報告時(1840年)以来現在でも、これらは診断する上でとても重要な症状です。しかし、バセドウ病にかかったら必ずこの3つすべての症状があらわれる、というわけではありません。バセドウ病では、これら3つの症状とともに、以下のような症状がよく見られます。

主な変化

  • 暑がりになる

  • 多汗になる(発汗過多)

  • 体温が上がる

  • 食欲が亢進する(食べる量が増える)

  • 体重が減る(たくさん食べているのに体重が増えない)

  • 脈が速くなる

  • 脈が飛ぶ(不整脈)

  • 動悸・息切れがする

  • 手・指先がふるえる

  • 落ち着きがなくなる

  • イライラしやすくなる

  • 疲れやすくなる

  • 不眠になる

  • 下痢や軟便になりやすい

  • 目(眼球)が出てくる

  • まぶたが腫れる、目が充血する

  • 首が腫れる

  • 月経不順になる(月経が少なくなることが多い)

  • (小児)学力が低下する

  • (小児)身長が急に伸びる

首の腫れ

甲状腺全体が腫れて大きくなる「びまん性甲状腺腫」はバセドウ病患者の約80%とほとんどの方にあらわれます。「びまん」とは「全体に広がる」という意味です。あまり目立たないこともありますが、外からは首が太くなったように見えます。

頻脈

甲状腺ホルモンが過剰になることで心臓が刺激されると、安静にしていても「頻脈(脈が速くなる)」「動悸(ドキドキする)」を生じます。また、少し動くだけでも「息切れ(息がハーハーする)」がしたりします。脈が飛ぶ「不整脈」も起こります。これらの心臓・循環器症状の原因がバセドウ病である可能性もありますので、症状が悪化する前にかかりつけ医などを受診し、早期に診断をつけて適切な治療を開始することが大切です。

眼球突出など目の症状

目の突き出る症状のほか、まぶたの腫れや結膜の充血、複視(ものが二重に見える)などの目の症状を総称して「バセドウ病眼症」「甲状腺眼症」と呼ばれます。首の腫れや頻脈がバセドウ病患者の大部分に見られる一方で、目の症状は25~50%と、症状が出ない方も比較的多いのが特徴です。

原因

バセドウ病は免疫の異常でおこる自己免疫性甲状腺疾患の一つです。本来は自分の体を細菌やウイルスから守る役目を果たすべき抗体が何らかの異常で自分の体の組織を攻撃・破壊したり、刺激したりすることで発症します。このような抗体を「自己抗体」といいます。バセドウ病は甲状腺を刺激する自己抗体ができる病気です。通常、甲状腺ホルモンは、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって産生量が適切にコントロールされています。しかし、バセドウ病にかかると、自己抗体(TSH受容体抗体:TRAb、甲状腺刺激抗体:TSAb)がTSHに代わりTSH受容体を刺激し続けて、甲状腺ホルモンが過剰に作られます。

自己抗体が発生する理由ははっきりしていませんが、遺伝的なものと環境的なものが関係していると考えられています。環境的な要因としては、強いストレスや喫煙、ヨウ素の過剰摂取などが挙げられますが、詳細はまだ不明で、多くの要因が複雑にかかわりあって発症する病気だと考えられています。

検査

バセドウ病の診断や症状の程度を調べるためにはまず、全身診察と甲状腺の視診・触診を行います。次に血液検査によって甲状腺などのホルモン量(甲状腺機能検査)と自己抗体の有無(甲状腺自己抗体検査)を調べます。また、「超音波検査」や、甲状腺ヨウ素摂取率・シンチグラフィ検査などを行います。不整脈や心不全などのリスクが高まる可能性もあるため、心臓への影響をみる心電図や胸部X線検査を追加する場合もあります。


甲状腺機能検査

甲状腺機能検査は、遊離型の甲状腺ホルモンであるFT4とFT3、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を確認します。TSHは脳のすぐ下にある下垂体から分泌され、その量は甲状腺ホルモンの量を一定に調整するように分泌されているため、甲状腺ホルモンとTSHの関係は、シーソーのように相互に関連しあっています。つまり、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)では、FT3・FT4はともに高値(甲状腺ホルモン量が多い状態)となる一方で、TSHは低値(甲状腺刺激ホルモン分泌が抑制されている状態)を示します。

甲状腺自己抗体検査

バセドウ病の自己抗体検査は、バセドウ病の原因である自己抗体(TSH受容体抗体:TRAbや甲状腺刺激抗体:TSAb)の有無やその活性値を調べます。バセドウ病に罹患している場合、約99%の割合で検査結果は陽性になり、診断に重要な所見となります。このほか、抗Tg抗体(TgAb)、抗TPO抗体(TPOAb)もバセドウ病の場合は高い確率で陽性になります。

超音波検査

バセドウ病での超音波検査は、甲状腺の形や大きさ、甲状腺内の血流、甲状腺全体の状態などを確認するために行います。バセドウ病の場合、びまん性甲状腺腫(甲状腺全体が同じように腫れる)がみられます。また、甲状腺の一部が腫れる結節性甲状腺腫の有無によって、腫瘍を合併していないかを見極めるためにも有用な検査です。

図1.正常の甲状腺エコー図
A:横断像 B:右葉縦断像 C:左葉縦断像

図1.正常の甲状腺エコー図
A:横断像 B:右葉縦断像 C:左葉縦断像

図2.バセドウ病の甲状腺エコー図
A:横断像 B:右葉縦断像 C:左葉縦断像
甲状腺右葉、左葉とも、正常よりも全体に腫大している(びまん性甲状腺腫)

図2.バセドウ病の甲状腺エコー図
A:横断像 B:右葉縦断像 C:左葉縦断像
甲状腺右葉、左葉とも、正常よりも全体に腫大している(びまん性甲状腺腫)

治療

バセドウ病の治療には、「薬物治療」「アイソトープ治療」「手術治療」の3種類があります。症状や身体の状態、生活環境やその他の状況を考慮して、医師と相談しながら決定します。

バセドウ病の治療では、まず血液中の甲状腺ホルモンを低下させ、正常に戻すことが重要です。甲状腺ホルモンを適切な量まで戻すことで、動悸・息切れや多汗などの症状は軽減されます。そのため薬物治療から始めることが一般的です。その後、病状などを考慮してアイソトープ治療や手術が選択されることがあります。

治療法長所短所
薬物療法
  • 薬を飲むだけでよい
  • 甲状腺機能低下症になっても戻る
  • 副作用があり得る
  • 治療が長期にわたる
  • 再発が多い
    アイソトープ治療
    • カプセルを1回飲むだけで良い
    • 薬物治療法に比べ短期間の治療で済む
    • 副作用、合併症がほとんどない
    • 甲状腺の腫れが小さくなる
    • 再発が少ない
    • 治療を受ける施設が限られている
    • 甲状腺機能低下症になりやすい
    手術
    • 確実に治療効果が得られる
    • 甲状腺の腫れが小さくなる
    • 再発が少ない
    • 手術の跡が残る
    • 専門の施設が限られている
    • 甲状腺機能低下症になりやすい

    薬物治療

    バセドウ病のお薬には、甲状腺のホルモンの合成や分泌を抑える「抗甲状腺薬」と「ヨウ素製剤」の2種類があります。ほとんどの場合、抗甲状腺薬を用いますが、副作用が出た場合や症状の程度・妊娠など身体の状態によってはヨウ素製剤が使用されることがあります。

    内服を始めて早い方では1か月、遅い方でも3~4か月後には、血液中の甲状腺ホルモンの値が低下して症状の改善が見込めます。

    甲状腺機能が正常となれば「抗甲状腺薬」はゆっくり減量していきます。薬の量を調整しながら2年程度内服を続けます。最少量の服薬で甲状腺機能が正常で、TRAbやTSAbが正常であれば内服を一旦、中止することが考慮されます。この状態を「寛解(かんかい)」と呼びます。ただし、「完治」というわけではなく、その後も再発することがありますので定期的な経過観察が必要です。

    注意

    症状が軽減したからといって、自己判断で服薬を中断するのは非常に危険です。甲状腺クリーゼと呼ばれる生命の危機をともなう重篤な状態に陥る場合があります。定期的に受診し、指示された用法・用量を守って服用を続けることが重要です。

    アイソトープ治療

    アイソトープ治療(131I内用療法)は、甲状腺がヨウ素を取り込む性質を利用して、甲状腺組織内部から放射線照射を行う治療法です。ごく弱い放射線を含んだ医療用のカプセルを1回服用するだけで治療ができるため、外来で受けることができます。内服すると甲状腺に放射性ヨウ素が集まり、甲状腺の組織を破壊するため、甲状腺が小さくなって、甲状腺ホルモンを作る力を弱めることができます。

    ただし、妊娠中はこの治療ができません。また、この治療を行った後、女性は6か月・男性は4~6か月、避妊が必要です。

    手術

    手術によって甲状腺を切除すると、甲状腺ホルモン生成を止めることができます。甲状腺の切除範囲は、以前は甲状腺の大部分を切除する「亜全摘」が一般的でした。しかし、甲状腺をどのくらい残すべきか、という推定は非常に難しく、少しでも甲状腺の組織が残っていれば、再び病気が進行する「再然・再発」のリスクが否定できないことから、近年では甲状腺を全て切除する「全摘」が主流となっています。

    まとめ

    • バセドウ病は、免疫異常により自己抗体が生じることで発症する甲状腺機能亢進症です。
    • バセドウ病では、「甲状腺の腫れ」「頻脈」「眼球突出」のほか、動悸・息切れや多汗などの症状がみられます。
    • バセドウ病の治療は通常、「抗甲状腺薬」の内服から開始されます。症状は1~4か月で改善することが多いです。
    • 経過によって、アイソトープ治療や手術治療が必要になることがあります。
    • 症状が軽減したからといって自己判断で治療を中断するのは非常に危険です。定期的な通院を継続して、ストレスを避けた規則正しい生活を送りましょう。

    理解が深まる用語解説

    甲状腺機能亢進症

    甲状腺機能亢進症は、何らかの原因により甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、新陳代謝が過度に促進された状態になる病気です。動悸や息切れ、多汗、体重減少などの症状がみられるようになります。手足のふるえや不眠、下痢などもよくある症状です。放置すると日常生活に多大な支障をきたし、命にかかわる病状につながることもあるため、早期に治療を開始することが大切です。

    FT4、FT3

    甲状腺ホルモンはヨウ素などを原料に産生され、1分子中にヨウ素を4つ含むサイロキシン(T4)と3つ含むトリヨードサイロニン(T3)の2種類があります。血液中のT4とT3の大部分は甲状腺ホルモン結合蛋白と結合し、そのごく一部が遊離型ホルモン(FT4・FT3)として存在します。全身で作用するのはFT4・FT3ですので、血液検査では、このFT4・FT3の数値によって、甲状腺ホルモンの作用状態を確認します。

    アイソトープ治療

    アイソトープ治療では、β(ベータ)線という放射線を出す性質を有する医療用放射性ヨウ素(131I)のカプセルを服用します。甲状腺に取り込まれた131Iからのβ線で組織内部から放射線照射を行う治療法です。「RI治療」「放射性ヨウ素内用療法」と呼ばれることもあります。β線の飛距離は非常に短いため作用は甲状腺にとどまって他臓器への影響がきわめて少なく、副作用や合併症のリスクも低い治療法です。ただし、妊娠・授乳時や5歳未満には使用出来ず、6歳から18歳以下や眼症の活動性の高い人には他治療が困難な場合のみ慎重に使われます。

    本記事は、隈病院の医師が監修しています。

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