【隈病院 専門医監修】甲状腺機能検査のFT4・FT3・TSHの見方:数値が高い場合や低い場合の原因などを解説
- #FT3
- #FT4
- #TSH
- #ドクターに聞く
- #バセドウ病
- #橋本病
- #甲状腺ホルモン
- #甲状腺機能検査
はじめに
採血とその結果説明を受けた患者さんは手元に「検査結果報告書」をお持ちと思います。その1行目から3行目にFT4、FT3、TSHとあって数値が記載されていますね(ただし、必ずしもこの3つがあるとは限りません。患者さんの状況に応じて、このうちの2つだけが測定されていることも多い)。これらは甲状腺ホルモンとそれを調整するホルモンの血中濃度で、甲状腺の働きを調べるために行った甲状腺機能検査の結果です。
今回は、これらが何を示しているかが分かるように、甲状腺ホルモンと甲状腺機能検査についてお話します。
T4、T3は甲状腺ホルモン
ホルモンとは体のさまざまな機能を調整している微量な活性物質です。ホルモンには数多くの種類がありますが、頸部にある甲状腺というところで産生・分泌されて、血流に乗って全身に運ばれるのが甲状腺ホルモンです。
甲状腺ホルモンには2種類あって、それがT4(数字を小さく下に書くことも多いので以下、このように4を小さく書きます。正式名:thyroxine)とT3(triiodothyronine)です。化学の授業で習う分子構造式を図1に示します。甲状腺ホルモンの構造上の重要な特徴はヨウ素(ヨードとも呼ばれます)を含んでいることで、T4・1分子中には4つのヨウ素原子があります。4つヨウ素があるので、略称T4というわけです。同様に、T3はヨウ素を3つ含んでいます。
の分子構造式-1024x645.png)
FT4、FT3とは
T4、T3が甲状腺ホルモンと分かりましたが、報告書にはFT4、FT3とあります。この「F」はfreeの略で、FT4は遊離型T4(または遊離T4、フリーT4)を表し、FT3は遊離型T3(遊離T3、フリーT3)です。FT4・FT3などという物質はなく、これらは血液中の「遊離型のT4やT3」という意味です。
T4、T3のもう一つの構造上の特徴はベンゼン環(いわゆる亀の甲。図1参照)を含んでいることで、そのために水に溶けにくい性質(脂溶性)があります。しかし、血液の液体部分は基本的に水ですので、このままでは安定して血流に乗れない。そのためにT4、T3は血中では運び役の蛋白質に結合して甲状腺から体中に輸送されます。この蛋白質にはサイロキシン結合グロブリン(TBG)などがあります。
血中ではT4のほぼすべて(約99・98%)が結合蛋白と結合していて、残りの0・02%(1万分の2)のみが何とか「フリー」で浮かんでいます(図2)。同様にT3は99・7%が結合型T3で遊離型T3は0.3%です。そして、血液から実際に作用する細胞内に入っていくのはこの遊離型T4(FT4)やFT3です。ですので、血中濃度としてより重要なのはT4、T3よりもFT4 、FT3なのです。

甲状腺ホルモン作用におけるT4とT3の違い
甲状腺ホルモンは私たちが生きていくのになくてはならない大事なホルモンです。その作用はひと言でいうと「細胞の働きを活発にして、体を元気にする」ことです。T4とT3の作用力を比較するとT3の方がT4よりも強い。
また、血中のT4はすべて甲状腺から直接分泌されます。それに対して、血中T3の大部分(約80%)は、一旦甲状腺から分泌されたT4が全身を巡っている内にヨウ素が1つとれて(脱ヨウ素反応) T3に転換されたものです。正常血中濃度はFT4の方がFT3より高くなっていて、これでT4とT3でうまくバランスをとって作用しています。
FT4やFT3が異常になる場合
血中甲状腺ホルモン値(FT4とFT3)が高くなる代表的な病気にバセドウ病があります。免疫の異常による自己抗体のために甲状腺ホルモンが過剰に作られる病気です。また、甲状腺の腫瘍が甲状腺ホルモンを作ることがあります(プランマー病)。亜急性甲状腺炎や無痛性甲腺炎でもFT4・FT3が一時的に上昇します(表1)
逆に甲状腺ホルモン値が下がる最も多い原因疾患が橋本病(慢性甲状腺炎とも呼ばれます)です。これは自己免疫によって甲状腺に炎症と障害が生じます。また、バセドウ病でアイソトープ治療をした後・甲状腺の手術をした後や、生まれつきの甲状腺の異常で低下する場合もあります。ヨウ素を摂りすぎた時や亜急性甲状腺炎・無痛性甲状腺炎の回復期にも一時的に低下することがあります(表1)
また、甲状腺自体に異常がなくても、脳や下垂体の異常でFT4・FT3が異常をきたすことがあります。種々の重い内臓の病気を患っている場合や非常に痩せている人などでは、脱ヨウ素反応が低下してFT3のみが低くなります(低T3症候群)。

TSHの重要性
甲状腺は自分勝手にホルモンを合成・分泌しているわけではありません。脳の真下にある下垂体というところから分泌される別のホルモンで厳密に調節を受けています(図3)。これが甲状腺刺激ホルモン(TSH)です。文字通り甲状腺を刺激するホルモンで、TSHが多くなれば甲状腺ホルモンの分泌は多くなり、少なくなれば少なくなります。一方で、血中のFT4・FT3が高くなればTSHは低くなり、FT4・FT3が低くなればTSHは高くなる、逆方向の調節もおこります(図3)。すなわち、甲状腺に異常がある場合、TSHとFT4・FT3は反対方向の動きをします。

甲状腺機能異常時と低T3症候群でのTSHとFT4、FT3の動き
例えば橋本病などで甲状腺が弱って甲状腺ホルモンが少なくなってきた場合(甲状腺機能低下症)を考えましょう。FT4が低くなってくれば、TSHが上昇して甲状腺を刺激してFT4を元に戻そうとします。この、TSHに尻をたたかれてFT4がなんとか正常を保っている状態を潜在性甲状腺機能低下症といいます。さらに甲状腺が弱って、甲腺がTSHに強く刺激されてもFT4が正常値を維持できなくなってしまった状態が顕性甲状腺機能低下症です。
一方、バセドウ病で甲状腺が勝手にホルモンを過剰に産生した場合(甲状腺機能亢進症)では、当初は高くなり出した血中のFT4を検知してTSHが低くなってFT4を正常に保つように調節されます(潜在性甲状腺機能亢進症)。甲状腺ホルモン産生過剰がさらに強くなって、TSHでの調節がうまく効かなくなってくるとFT4が上昇します(顕性甲状腺機能亢進症)。
このように、甲状腺機能に異常が出始めるとまず、TSHに変化が現れます。TSHによる調節が不可能になるとFT4も異常値となります。ですので、甲状腺機能を簡便に評価する場合は通常、FT4とTSHの2つが選択されます。
FT4とFT3は概ね同じように上下しますが、低下症ではFT3よりもFT4が早期に低値となり、亢進症ではFT4よりもFT3の方が上昇度の高いことが多い。また、前述のように、低T3症候群では甲状腺機能は正常で脱ヨウ素反応低下が主因ですので、TSH、FT4は正常で、FT3のみが低くなります。これらの動きをまとめたのが表2です。

→:正常 ↑:上昇 ↓:低下 矢印の数は程度の強さを概念的に示す。
まとめ
甲状腺ホルモンと甲状腺機能検査について大まかに話しました。甲状腺ホルモンに興味を持って、ご自分の検査結果を正しく理解してもらえれば幸いです。
学術顧問
西川 光重
PROFILE
京都大学医学部卒業。大学病院、市中病院での勤務を経て京都大学大学院に進学。医学博士取得後は関西医科大学に在籍し、主に甲状腺、内分泌代謝疾患の臨床と研究に従事。この間、カナダのトロント大学で甲状腺に関する研究を深める。
2015年まで関西医科大学の教授を務め、その後、甲状腺診療の経験を生かしたいと隈病院に入職。学術顧問として臨床・研究に取り組みながら、若手医師の育成にも尽力している。
日本甲状腺学会会長も務めた。関西医科大学 名誉教授。