甲状腺眼症(バセドウ病眼症)
甲状腺眼症は、バセドウ病などの甲状腺の病気によって現れる目の症状をいいます。「目が出る(眼球突出)」「まぶたが腫れる」などの顔つきの変化から、重度になると視力低下などを引き起こすこともあります。ただし、バセドウ病の方すべてに眼症状がみられるわけではなく、症状が出る方は、ごく軽いものまで含めても30%ほどの割合であると言われています。
甲状腺眼症は喫煙によって症状が悪化することがわかっています。甲状腺疾患をお持ちで、たばこを吸っているという方は、今すぐ禁煙しましょう。
さくっと解説!3分動画
症状
目の症状と甲状腺のホルモンの異常は、多くが同じ時期に出現します。しかし、目の症状だけが先に出ることや、逆にバセドウ病などの治療中に、遅れて目の症状が出ることもあります。甲状腺眼症の症状は軽度から重度までさまざまで、次のようなものが見られます。
主な変化
まぶたの腫れ
まぶたがつりあがる
目が出る(眼球突出)
結膜(白目の部分)の充血
目の痛み
物が二重に見える
目がころころする
まぶしい
視力低下
物がゆがんで見える
視野全体に色が付いて見える
まぶたの腫れ・吊り上がる
まぶたが腫れて「むくんだ」ように見えたり、まぶたが上に引っ張られたりすることがあります。これによって、目の乾燥や異物感を感じることもあります。
眼球突出
眼の奥の筋肉や脂肪が腫れることで、眼球が前に押し出され、目が飛び出したように見えます。これを「眼球突出」と呼び、顔つきが大きく変わってしまいます。
視力低下・視野のゆがみ
視力低下、物がゆがんで見える、色が変わって見えるといった症状は、視神経が圧迫されることによっておこります。これらの症状がみられる場合は、かなり進行しているため、治療を急ぐ必要があります。
症状が悪化する活動期が数か月間続いた後、あまり変化がなくなる非活動期に進みます。非活動期になると外科的治療が必要になる場合があり、できるだけ早い時期に診断・治療を受けることが大切です。
原因
バセドウ病の原因と同じく、自己免疫の異常が原因と考えられています。まぶたや眼球の後ろの組織に炎症が起こります。炎症が起きた部分がむくんで腫れたり、炎症が落ち着いたあとも脂肪組織が増えたりするために、さまざまな症状が現れます。
一方で、甲状腺機能亢進症によるホルモンの過剰分泌が影響して、筋肉の収縮などにより目の症状が見られる場合もあります。
検査
甲状腺の病気の検査(血液検査、超音波検査など)に加えて、専用の器具によって眼球突出度を調べたり、眼球周辺の筋肉の腫れなどを確認するためCT検査を行ったりすることがあります。さらに、目の炎症や眼症状の活動性を評価するために、視力や眼圧を調べる検査やMRI検査を用いることもあります。
血液検査(自己抗体検査)
自己免疫性甲状腺疾患の原因の一つと考えられている甲状腺刺激ホルモン受容体抗体(TRAb・TSAb)は、目の症状の経過を反映しやすいと言われています。
治療
まずは、血液中の甲状腺ホルモン値を正常化させることが必要です。ホルモン量のコントロールのため、定期的な受診で医師と相談しながら、メルカゾールなどの抗甲状腺薬を、用法・用量を守ってきちんと服用しましょう。眼症状が甲状腺機能亢進症によるものであった場合には、ホルモンの過剰分泌が抑えられれば、症状の緩和が期待できます。
しかし、自己免疫の異常が原因の場合は、専門の眼科医と内科医の連携による眼症状のための治療が必要です。炎症が強い時期(活動期)と、炎症が落ち着いた時期(非活動期)では、手段が異なります。
活動期の治療
局所治療
比較的症状が軽い場合は、炎症のあるまぶたなどに、副腎皮質ホルモン(ステロイド)薬の注射を行います。ステロイドには炎症を抑える効果があります。
ステロイドパルス療法
中等症から重症の場合に行います。ステロイドを点滴で注射します。入院して行う方法と、外来で行う方法があります。
放射線療法
ステロイドパルス療法と同時に行うことが多い治療です。目の奥の組織に放射線をあてて、炎症が再び起こらないようにします。設備の整った放射線科がある医療機関に通院する必要があります。
非活動期の治療
ボツリヌス毒素の局所注射
炎症が治まっている状態で、目の見開きに左右差がある場合には、ボツリヌス毒素の局所注射を行うことがあります。
外科的手術
腫れているまぶたの脂肪を切除する手術、眼球を引っ込める手術(眼窩減圧術)、眼球運動障害による斜視に対する手術などがあります。
!注目!新しい薬剤『テッペーザ®』による治療
2024年秋に製造販売が承認された新薬『テッペーザ®(テプロツムマブ)』は、国内で初めての甲状腺眼症の治療薬です。
成長因子の一つである、IGF-1の働きを抑えるお薬で、IGF-1は動物の成長や発達を促す因子であり、甲状腺眼症の発症に関係しているとされています。
眼球突出を含む、目の様々な症状の改善が期待できます。外来で3週間ごとに約6ヶ月間、点滴治療を行います。
まとめ
- 甲状腺眼症(バセドウ病眼症)は、主にバセドウ病などの甲状腺疾患患者のうち、およそ30%の割合でみられる目の症状です。
- 甲状腺眼症は、症状が進行する活動期のあと、非活動期に移行します。治療方法が異なるため、早期に治療を開始しましょう。
- 喫煙は甲状腺眼症の症状に多大な悪影響を与えます。すぐに禁煙しましょう。
- 甲状腺眼症の新薬『テッペーザ®』による治療が2024年に開始されました。
理解が深まる用語解説
バセドウ病眼症
甲状腺眼症は、バセドウ病患者さんに眼症状が多くみられることから、「バセドウ病眼症」と呼ばれることもあります。しかし、バセドウ病だけに限らず、橋本病の方や甲状腺機能には異常が見られない方にも、ごくまれに甲状腺眼症の症状が現れることがあるため、最近では「甲状腺眼症」の方がよく用いられています。
自己免疫性疾患
免疫は通常、自己を守るために異物を攻撃する働きをします。ところが、この免疫に異常が生じることによって、本来攻撃されるはずのない自身の臓器などが攻撃され、心身に支障をきたす病気を「自己免疫疾患」といいます。免疫に異常が発生する原因はわかっておらず、そのため免疫異常そのものを治療することは困難なため、慢性的な症状と長く付き合っていくケースが多いのが現状です。
テッペーザ®
活動性甲状腺眼症(aTED)を対象とする点滴治療のお薬です。眼球突出や眼球運動の改善(炎症・脂肪の増加・筋肉の肥大化)を抑制する効果が確認され、2024年に製造販売が承認されています。症状が早期に改善される可能性があり、外科的治療を回避して、生活の質向上が望めます。詳細は、「甲状腺眼症のおくすり「テッペーザR」の投薬治療を開始しました」のページをご確認ください。